老化とは何だろうか。
一般には、
筋力低下、
記憶力低下、
身体機能低下、
などが老化として語られる。
もちろん、それらは重要である。
しかし本書では、老化を「ベクトルの減衰」という視点からも考えたい。
本書で繰り返し述べてきたように、人間は欲望ベクトルによって動いている。
知りたい。
恋愛したい。
認められたい。
作りたい。
話したい。
これらのベクトルが、人間を外界へ向かわせる。
つまり、生きるとは「世界へ向かう運動」でもある。
しかし老化では、このベクトルが徐々に弱くなることがある。
何にも興味が湧かない。
外へ出たくない。
新しいことをしたくない。
誰にも会いたくない。
すると、人間は次第に停止へ向かい始める。
本書の視点では、これは単なる身体老化だけではない。
「欲望システム全体の活動低下」でもある。
ここで重要なのは、老化には個人差が極めて大きいという点である。
高齢でも、
学び続ける人、
恋愛する人、
芸術へ没頭する人、
研究を続ける人、
が存在する。
つまり年齢そのものより、「ベクトル維持」が重要なのである。
実際、老年医学でも、
社会参加、
知的活動、
対人交流、
が認知機能維持と関係すると言われている。
これは本書のモデルで言えば、「世界へのベクトルを維持している状態」と理解できる。
逆に、
何も求めない。
何にも反応しない。
という状態では、脳への刺激入力が急速に減少する。
つまり人間の脳は、「使わない方向」へ衰えやすいのである。
また、本書で述べてきたように、性欲も生命ベクトルの一部である。
高齢でも、
異性に興味を持つ、
美を感じる、
親密性を求める、
という状態は、「世界への反応性」が残っていることを意味する。
もちろん、それだけで健康を完全に説明できるわけではない。
しかし欲望ベクトルが残っている人は、全体として活力を維持しやすい。
ここで現代社会の問題は、「ベクトル喪失を加速しやすい」点にある。
引退後、
役割を失う。
社会参加が減る。
孤独になる。
すると、
自分は必要とされていない、
何をすればよいか分からない、
という状態になりやすい。
つまり「役割ベクトル」が消失する。
人間は、他者との関係や目的によって、自分の存在方向を維持している部分が大きい。
そのため、
仕事、
家族、
趣味、
研究、
恋愛、
など、何らかの「向かう対象」が極めて重要になる。
本書の視点では、老化そのものを完全には止められない。
しかし、「ベクトル消失速度」は変えられる可能性がある。
興味を持つ。
学ぶ。
他者と関わる。
何かを求める。
これらはすべて、「世界へ向かう運動」である。
つまり本書では、老化とは単なる年齢現象ではなく、
欲望、
興味、
行動、
世界との接続、
が徐々に弱まっていく過程として理解している。
そして、人間はベクトルを失う時、静かに停止へ近づいていくのである。