現代社会では、人間が相手に求める理想水準が上昇している。
これは恋愛や結婚だけではない。
仕事、生活、外見、能力、人生そのものに対して、「より高い理想」が求められるようになっている。
本書の視点では、その背景には、
比較社会化、
情報化、
欠乏感度増幅、
が存在している。
かつて人間の比較対象は、限られた共同体の中に存在していた。
しかし現在では、SNSやインターネットによって、世界中の「上位」が常時視界へ入る。
美しい人。
成功した人。
高収入の人。
洗練された生活。
理想的な恋愛。
すると脳は、それらを基準として処理し始める。
その結果、人間の「普通」の基準そのものが上昇する。
昔なら十分魅力的だった条件が、現代では「普通」として扱われる。
つまり文明の進歩は、人間の理想値そのものを押し上げているのである。
特に恋愛や結婚では、この影響が大きい。
より高収入。
より高学歴。
より魅力的。
より会話力が高い。
より優しい。
より安定している。
人間は、より多くを求めるようになる。
もちろん、これは男性側にも女性側にも存在する。
しかし本書で述べてきたように、女性は生物学的に配偶者選択コストが高いため、比較的慎重な選択を行いやすい傾向がある。
そのため、女性の経済的自立が進むと、
「無理に結婚しなくてもよい」
という選択が成立しやすくなる。
すると、理想に届かない相手との結婚は避けられやすくなる。
一方で男性側は、比較競争への圧力が強くなる。
より成功しなければ。
より価値を示さなければ。
より魅力的でなければ。
つまり現代社会では、恋愛市場そのものが高度競争化しているのである。
ここで重要なのは、理想上昇は終わりにくいという点である。
なぜなら比較対象が無限だからである。
常にもっと上が存在する。
もっと魅力的な人。
もっと成功した人。
もっと理想的な生活。
すると脳は、「まだ足りない」と感じ続ける。
つまり理想上昇社会とは、「満足基準が永遠に更新され続ける社会」なのである。
さらに現代では、「自己実現」も理想化されている。
ただ結婚するだけでは足りない。
ただ生活できるだけでは足りない。
理想的な恋愛、
理想的な仕事、
理想的な人生、
が求められる。
その結果、人間は「中途半端」を受け入れにくくなる。
しかし現実の人間は不完全である。
そのため、
期待と現実の差、
理想と現実の差、
による失望も増えやすくなる。
これは恋愛だけでなく、社会全体にも広がっている。
理想上昇社会では、人間は豊かになる。
しかし同時に、「十分」と感じにくくなる。
つまり文明とは、欠乏を減らすシステムであると同時に、「理想基準を上げ続けるシステム」でもあるのである。
その結果、人間は、かつてより多くを持ちながら、なお不足を感じ続ける。
現代社会とは、巨大化した理想と比較の中で、人類が終わりのない上昇を求め続ける時代なのである。