現代社会では、多くの先進国で出生率が低下している。
結婚する人が減り、子供を持たない人も増えている。
この背景には、さまざまな要因が存在する。
経済構造の変化。
都市化。
教育費上昇。
価値観の多様化。
SNSによる比較社会化。
その中でも極めて大きな変化の一つが、「女性の自立」である。
かつて、多くの社会では、女性が単独で経済的に生きることは容易ではなかった。
そのため結婚は、
生活基盤、
安全保障、
社会的所属、
としての意味を強く持っていた。
しかし現代では、女性も教育を受け、収入を得て、自立できるようになった。
これは文明として非常に大きな進歩である。
一方で、その結果、「結婚しなければ生きていけない」という状況は大きく減少した。
つまり結婚は、「必要」から「選択」へ変化したのである。
ここで重要なのは、人間の配偶行動には比較と選択が強く関与しているという点である。
本書で述べてきたように、人間は常に価値比較を行う。
より魅力的な相手。
より能力の高い相手。
より安心できる相手。
そして現代では、SNSや情報化によって比較対象が極端に増加している。
その結果、配偶者選択基準も上昇しやすくなる。
特に女性は、生物学的に妊娠・出産コストを負うため、進化的には配偶者選択が慎重になりやすかったと考えられている。
もちろん個人差は大きい。
しかし全体傾向として、
「より良い相手がいないなら、一人でもよい」
という選択が現実的になりやすくなった。
これは、女性の経済的自立があるからこそ可能になった変化である。
一方、男性側も大きく変化している。
かつては、「働いて家族を養う」という役割が比較的明確だった。
しかし現代では、
非正規化、
所得格差、
将来不安、
などにより、従来型の「一家の大黒柱モデル」が成立しにくくなっている。
その結果、男性側も、
結婚への自信低下、
恋愛競争からの離脱、
承認不安、
を抱えやすくなっている。
つまり現代社会では、
女性は「妥協してまで結婚する必要が減った」。
男性は「選ばれる競争への不安が増えた」。
という構造が同時に進行している。
さらに、現代文明は「個人幸福」を強く重視する。
自由。
自己実現。
趣味。
キャリア。
快適な生活。
これらを維持しながら、結婚や育児を成立させることは簡単ではない。
そのため、
自由を失いたくない。
生活水準を下げたくない。
負担を増やしたくない。
という感覚も強くなる。
つまり、現代社会では、「結婚によって得られる利益」と「失われる自由」の比較が、以前より強く行われるようになったのである。
ここで重要なのは、これは単純な「男女対立」ではないという点である。
本質的には、文明の高度化によって、人間の選択肢が増えすぎたのである。
結婚しない人生も可能になった。
一人でも生きられるようになった。
比較対象も無限に増えた。
その結果、人間は「最適解」を探し続けるようになった。
しかし比較に終点はない。
もっと良い相手がいるかもしれない。
もっと自由な生き方があるかもしれない。
そうして、人間は決断を遅らせる。
つまり現代の未婚化や少子化とは、文明発展によって生じた「選択過剰社会」の結果でもあるのである。