4-3 比較対象が世界規模になる時代

かつて人間は、極めて狭い世界の中で生きていた。

村。
地域。
職場。
学校。

比較対象は限られていた。

自分の位置も、その共同体の中で決まっていた。

しかし現代では、その構造が完全に変化した。

インターネットとSNSによって、人間は世界中の人々と同時につながるようになった。

これは文明史的に見ても、極めて大きな変化である。

本書で繰り返し述べてきたように、人間の脳は比較を行う。

そして比較は、欠乏感度を増幅する。

問題は、現代ではその比較対象が「世界規模」になったことである。

かつてなら、一生出会わなかったような存在が、毎日画面に現れる。

超富裕層。
世界的成功者。
圧倒的美形。
若い天才。
理想化された恋愛。
完璧に見える家庭。

人間の脳は、それらを自動的に比較対象として処理してしまう。

ここで重要なのは、脳は「統計的現実」を正確には理解していないという点である。

SNSには、極端に成功した人、魅力的な人、刺激的な人生が集中する。

しかし脳は、それを「世界の平均像」と誤認しやすい。

その結果、人間は、

自分はまだ足りない。
もっと上へ行かなければ。
もっと価値を持たなければ。

と感じやすくなる。

つまり現代社会では、「比較空間」が無限化しているのである。

これは恋愛や結婚にも大きく影響している。

昔は、地域共同体の中で配偶者を探すことが多かった。

しかし現代では、SNSやマッチングアプリによって、比較対象が無数に存在する。

すると人間は、

もっと良い相手がいるかもしれない。
もっと魅力的な人がいるかもしれない。

と考えやすくなる。

その結果、「今ある関係」に満足しにくくなる場合がある。

つまり比較対象の拡大は、欲望そのものを巨大化させる。

これは経済活動でも同じである。

以前なら十分豊かだった人でも、世界の超富裕層を見ると不足を感じる。

十分魅力的な人でも、世界最高レベルの美を見続けると劣等感を持つ。

つまり現代文明は、人間の欠乏感度を世界規模で刺激しているのである。

ここで重要なのは、この構造には文明加速効果もあるという点である。

世界中の優れた情報を見ることで、

学習速度、
技術発展、
競争力、

は大きく向上した。

つまり世界規模比較は、人類文明を加速させている。

しかし同時に、人間を永遠に満足しにくくしている。

なぜなら、「上」が無限に存在するからである。

村社会では、ある程度の位置に到達すれば満足できた。

しかし世界規模比較では、終点が存在しない。

常にさらに上が見える。

その結果、人間は、

もっと成功したい。
もっと評価されたい。
もっと魅力的になりたい。

という終わりのない欲望ベクトルを持ち続ける。

つまり現代社会とは、人類史上初めて、「全人類が同時比較空間へ入った時代」なのである。

そして、その巨大化した比較構造が、恋愛、経済、承認欲求、少子化、精神的不安定にまで深く影響を与えているのである。

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