【第3章 承認欲求と比較社会】 3-1 人はなぜ認められたいのか

人間は、なぜ他人から認められたいのだろうか。

なぜ評価を気にするのか。
なぜ無視されると苦しいのか。
なぜ賞賛されると嬉しいのか。

それは、人間が社会的動物だからである。

人類は長い進化の歴史の中で、集団の中で生き延びてきた。

一人では弱かった。

狩猟も、防衛も、子育ても、共同体なしでは難しかった。

そのため、人間の脳は、「集団から受け入れられること」に強い価値を感じるよう進化した。

逆に、排除されることには強い恐怖を感じる。

つまり承認欲求とは、単なるわがままではない。

それは、生存戦略の一部として形成された欲望なのである。

他人から認められる。
価値ある存在として扱われる。
集団内で重要視される。

これらは、進化の過程では、生存や繁殖に有利だった。

そのため、人間の脳は承認を「報酬」として感じる。

褒められると嬉しい。
評価されると快感を感じる。
注目されると高揚する。

これは脳の報酬系が反応しているからである。

本書の視点では、承認欲求もまた「ベクトル」である。

他者から価値ある存在として見られたい。

その方向へ向かう欲望ベクトルである。

このベクトルは、極めて強力である。

なぜなら、人間は「自分だけで自分を評価する」ことが難しいからである。

自分が価値ある存在なのかどうかを、多くの人は他者反応によって確認している。

そのため、

褒められると安心する。
無視されると不安になる。
否定されると苦痛を感じる。

つまり承認とは、「自己価値確認システム」の役割も持っている。

ここで重要なのは、人間の承認欲求には終わりがない場合があるという点である。

なぜなら承認は「相対的」だからである。

他人より上へ行きたい。
もっと評価されたい。
もっと有名になりたい。

比較対象が存在する限り、人間は新しい不足を感じ続ける。

そのため承認欲求は、文明を強く加速させる。

芸術家は評価を求める。
学者は名声を求める。
経営者は成功を求める。
政治家は支持を求める。

もちろん、純粋な好奇心や使命感も存在する。

しかし、多くの場合、「認められたい」という欲望も強く関与している。

つまり承認欲求とは、人類文明を動かしてきた巨大なエネルギー源でもある。

一方で、この欲求は人間を苦しめる。

他人と比較する。
劣等感を持つ。
評価に依存する。
SNSに振り回される。

現代社会では、この傾向がさらに強くなっている。

かつて人間は、小さな共同体の中で比較されていた。

しかし現在では、世界中の成功者が可視化される。

すると、人間は常に「自分は足りない」と感じやすくなる。

つまり現代文明とは、「承認欠乏」を増幅する社会でもある。

しかし逆に言えば、人間は「認められたい」という欲望によって、努力し、成長し、文明を発展させてきた。

承認欲求とは、単なる虚栄心ではない。

それは、人間を社会へ向かわせる根源的ベクトルなのである。

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