2-8 性欲は生命力なのか

性欲は、しばしば「生命力」と結びつけて語られる。

実際、人は、

性欲が強い人を見ると、
活力がある、
若々しい、
エネルギッシュである、

という印象を持つことが多い。

逆に、

何にも興味がない。
欲望がない。
他者への関心がない。

という状態には、「生命エネルギーの低下」を感じやすい。

では、性欲とは本当に生命力なのだろうか。

本書の視点では、ある意味ではそうである。

なぜなら性欲とは、「他者へ向かう強い欲望ベクトル」だからである。

性欲が存在するということは、

快感を求める。
他者を求める。
魅力を感じる。
接触したい。
認められたい。

という脳の反応性が残っていることを意味する。

つまり、「世界に対する反応エネルギー」が維持されているのである。

実際、老化や抑うつでは、

欲望低下、
興味低下、
行動意欲低下、

がよく見られる。

これは単なる性機能低下ではない。

脳全体のベクトル活動が弱くなっている状態とも言える。

逆に、高齢でも、

恋愛したい。
美しくありたい。
異性に興味がある。
性的刺激に反応する。

という人は、全体として活力を維持していることが少なくない。

もちろん、性欲だけで生命力を完全に説明することはできない。

知識欲が強い人もいる。
芸術欲求が強い人もいる。
社会参加欲求が強い人もいる。

しかし共通しているのは、「外界へ向かうベクトル」が存在していることである。

つまり生命力とは、「世界に向かうエネルギー」として理解できる。

その中でも、性欲は特に強力で原始的なベクトルである。

なぜなら、それは生殖という、生物最大の目的と結びついているからである。

進化の歴史の中で、生殖行動を強く求める個体ほど、遺伝子を残しやすかった。

その結果、人類の脳には極めて強力な性的報酬系が形成された。

つまり性欲とは、生物学的に「生き続けろ」「遺伝子を残せ」という巨大な圧力の表現でもある。

ただし、ここで重要なのは、「性欲が強い=人格的に優れている」という意味ではないということである。

本書では、善悪や道徳を論じているのではない。

ここで述べているのは、「行動エネルギーの強さ」である。

性欲が強い人は、性的価値への欠乏感度が高い。

そのため、その方向への反応性や行動エネルギーが大きい。

つまり、本書の単純化モデルでは、性欲とは「生命ベクトルの強さ」の一表現として見ることができる。

もちろん、そのベクトルは、人によって方向が異なる。

ある人は恋愛へ向かう。
ある人は芸術へ向かう。
ある人は知識へ向かう。
ある人は権力へ向かう。

しかし、人間が生きている限り、何らかのベクトルは存在する。

完全にベクトルを失った状態とは、世界への反応そのものが消失した状態である。

つまり、生きるとは、何かを求め続けることでもある。

そして性欲とは、その中でも最も根源的な生命ベクトルの一つなのである。

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