2-7 高齢者と性欲

一般に、人は「高齢になると性欲はなくなる」と考えがちである。

しかし実際には、それほど単純ではない。

確かに加齢によって、身体機能は変化する。

男性では、

テストステロン低下、
血流低下、
勃起機能低下、
射精量減少、

などが起こる。

女性でも、

閉経、
女性ホルモン低下、
潤滑低下、

などの変化が起こる。

そのため、若年期と同じ形での性的活動は減少しやすい。

しかし重要なのは、「性欲そのもの」が完全に消失するとは限らないという点である。

実際、高齢でも、

異性に関心を持つ。
恋愛感情を持つ。
性的興奮を感じる。
親密性を求める。

人は少なくない。

つまり、性欲とは単なる若年者の現象ではない。

それは、「他者へ向かう欲望ベクトル」の一形態なのである。

本書の視点では、性欲とは、欠乏感度の表現でもある。

性的関心があるということは、

美を感じる。
魅力を感じる。
親密性を求める。
快感を求める。

という脳の反応性が維持されていることを意味する。

つまり、高齢でも性欲があるということは、「脳のベクトル活動」が残っているとも言える。

実際、老年医学では、

好奇心、
社会参加、
恋愛感情、
他者への関心、

などが維持されている高齢者は、全体として活力が高いことが多い。

逆に、

何にも興味がない。
誰にも会いたくない。
欲望が消失している。

という状態では、認知機能低下や抑うつが関与している場合もある。

もちろん、性欲の強さには大きな個人差がある。

若い頃から性欲が弱い人もいる。
高齢でも強い性欲を持つ人もいる。

また、文化や宗教、人生経験によっても大きく変化する。

しかし、人類全体として見れば、性欲は極めて根源的な生命エネルギーの一つである。

だからこそ、高齢になっても完全には消えない場合がある。

人間の脳は、「生殖年齢」が終わったからといって、簡単に欲望システム全体を停止するわけではない。

むしろ、

他者とつながりたい。
認められたい。
愛されたい。

という欲望は、高齢になっても残り続ける。

そして性欲は、その一部として存在している。

現代社会では、高齢者の性欲はしばしば軽視される。

しかし実際には、高齢者施設や介護現場でも、恋愛や性的感情は存在する。

これは異常ではない。

人間が「欲望ベクトルを持つ存在」である以上、高齢になっても、その方向性の一部は残り続けるのである。

もちろん、性欲は人を苦しめることもある。

孤独、
配偶者喪失、
身体機能低下、
社会的抑圧。

これらによって葛藤が生じることも多い。

しかし、それでもなお、高齢者に性欲が存在するという事実は、人間が最後まで「他者へ向かう存在」であることを示している。

つまり性欲とは、単なる若さの象徴ではない。

それは、人間が生き続けようとする根源的ベクトルの一つなのである。

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