6-7 老化とベクトル消失

老化とは何だろうか。

一般には、

筋力低下、
記憶力低下、
身体機能低下、

などが老化として語られる。

もちろん、それらは重要である。

しかし本書では、老化を「ベクトルの減衰」という視点からも考えたい。

本書で繰り返し述べてきたように、人間は欲望ベクトルによって動いている。

知りたい。
恋愛したい。
認められたい。
作りたい。
話したい。

これらのベクトルが、人間を外界へ向かわせる。

つまり、生きるとは「世界へ向かう運動」でもある。

しかし老化では、このベクトルが徐々に弱くなることがある。

何にも興味が湧かない。
外へ出たくない。
新しいことをしたくない。
誰にも会いたくない。

すると、人間は次第に停止へ向かい始める。

本書の視点では、これは単なる身体老化だけではない。

「欲望システム全体の活動低下」でもある。

ここで重要なのは、老化には個人差が極めて大きいという点である。

高齢でも、

学び続ける人、
恋愛する人、
芸術へ没頭する人、
研究を続ける人、

が存在する。

つまり年齢そのものより、「ベクトル維持」が重要なのである。

実際、老年医学でも、

社会参加、
知的活動、
対人交流、

が認知機能維持と関係すると言われている。

これは本書のモデルで言えば、「世界へのベクトルを維持している状態」と理解できる。

逆に、

何も求めない。
何にも反応しない。

という状態では、脳への刺激入力が急速に減少する。

つまり人間の脳は、「使わない方向」へ衰えやすいのである。

また、本書で述べてきたように、性欲も生命ベクトルの一部である。

高齢でも、

異性に興味を持つ、
美を感じる、
親密性を求める、

という状態は、「世界への反応性」が残っていることを意味する。

もちろん、それだけで健康を完全に説明できるわけではない。

しかし欲望ベクトルが残っている人は、全体として活力を維持しやすい。

ここで現代社会の問題は、「ベクトル喪失を加速しやすい」点にある。

引退後、
役割を失う。
社会参加が減る。
孤独になる。

すると、

自分は必要とされていない、
何をすればよいか分からない、

という状態になりやすい。

つまり「役割ベクトル」が消失する。

人間は、他者との関係や目的によって、自分の存在方向を維持している部分が大きい。

そのため、

仕事、
家族、
趣味、
研究、
恋愛、

など、何らかの「向かう対象」が極めて重要になる。

本書の視点では、老化そのものを完全には止められない。

しかし、「ベクトル消失速度」は変えられる可能性がある。

興味を持つ。
学ぶ。
他者と関わる。
何かを求める。

これらはすべて、「世界へ向かう運動」である。

つまり本書では、老化とは単なる年齢現象ではなく、

欲望、
興味、
行動、
世界との接続、

が徐々に弱まっていく過程として理解している。

そして、人間はベクトルを失う時、静かに停止へ近づいていくのである。

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