1-1. 真実が揺らぐ時代に生きる
私たちは、歴史上かつてないほど「真実」が揺らいでいる時代に生きている。かつては「写真=証拠」、「新聞=事実を伝える媒体」と考えられていたが、今では写真・動画・文章・音声さえも高度な技術で偽造できるようになった。そして、それらはインターネットを通じて瞬時に拡散され、世界中に影響を与える。
1-2. 科学技術の恩恵と、問いの深化
科学技術は人類に恩恵をもたらしてきた。病気の治療、通信の発達、情報の共有―その利便性は計り知れない。しかし、その一方で「真実とは何か」「信じるとはどういうことか」という問いは、かつてないほど複雑になっている。
1-3. 善人が悪人にされる社会
歴史上、悪意ある人物が善人のふりをすることは常に存在した。だが現代では、その「ふり」があまりに巧妙で、本物と見分けがつかない。逆に、ある人が善人であるにもかかわらず、操作された情報によって「悪人」とされ、社会的に排除されてしまうこともある。善意が踏みにじられ、正義が敗北する場面さえあるのだ。
1-4. 現実と虚構の境界が曖昧になる
仮想現実(Virtual Reality、VR)や拡張現実(Augmented Reality、AR)などの技術は、現実と非現実の境界をあいまいにし、人間の知覚と感情に直接訴える。その結果、「これは現実か、幻想か」という問いすら判断が難しくなっている。
1-5. 真実を「見抜くだけ」では足りない
このような世界では、単に「真実を見抜く目」を持つだけでは不十分である。私たちは、どのように真実に向き合うか、どのように生きるかという倫理的な選択を日々迫られている。
1-6. 本書の問いと目的
本書では、以下の3つの核心的な問いを中心に据えて、多角的に検討していく。
- 真実とは何か
- 科学技術は真実をどのように歪めうるのか
- 嘘と現実が混ざり合う世界で、人はどう信じ、どう行動すべきか
混乱と不確実性の時代にあっても、真実を追い求める意志を失わずに生きること。それこそが、現代人に求められる姿勢であり、未来の人類に託すべき精神である。