7-3 協調するベクトル

本書では、人間社会を「欲望ベクトルの集合体」として考えてきた。

そして前節では、「衝突するベクトル」について述べた。

しかし人類社会は、衝突だけで成立しているわけではない。

人間は同時に、「協調」も行う。

なぜなら、人類は本来、集団で生き延びてきた生物だからである。

一人では弱い。
しかし集団になると強い。

これが人類文明の根本構造である。

本書の視点では、協調とは「欲望ベクトルの部分的一致」である。

完全に同じ価値観でなくても、

目的、
利益、
感情、

の一部が一致すれば、人間は協力できる。

例えば経済活動では、

売りたい人と、
買いたい人

の欲望が一致する。

すると交換が成立する。

つまり市場とは、「協調ベクトル空間」でもある。

恋愛も同じである。

愛されたい。
一緒にいたい。
支え合いたい。

互いのベクトルが一定方向で一致すると、関係が成立する。

家族も、企業も、国家も、本質的には同じである。

つまり人間社会は、「部分的一致の積み重ね」によって成立しているのである。

ここで重要なのは、人間は「完全一致」ではなくても協調できるという点である。

考え方が違っても、

利益共有、
安全保障、
感情共有、

が成立すれば、共同体は維持できる。

つまり文明とは、「完全同一化」ではなく、「衝突を抑えながら協力可能な範囲を広げる仕組み」なのである。

また、本書で繰り返し述べてきたように、人間は承認を求める。

認められたい。
受け入れられたい。

この欲望が、人間を社会へ向かわせる。

つまり協調とは、単なる合理性だけでなく、「社会的所属欲求」によっても支えられている。

さらに、人間には共感能力が存在する。

悲しみに共感する。
喜びを共有する。
仲間意識を持つ。

これは、人類が集団生存を行ってきた結果として進化した可能性がある。

つまり人間は、「衝突する存在」であると同時に、「協調する存在」でもある。

ここで文明発展の重要点は、「協調範囲の拡大」である。

昔は、家族単位だった。
次に村。
次に国家。
そして現代では、国際社会。

つまり人類史とは、「協調ベクトル範囲」を拡大する歴史でもあった。

もちろん、その過程では常に衝突も存在する。

しかし同時に、

交易、
科学共有、
国際協力、

も拡大してきた。

つまり文明とは、「衝突」と「協調」の同時進行なのである。

さらに現代では、インターネットによって、人類は巨大な接続ネットワークへ入った。

すると、

知識共有、
国際共同研究、
文化交流、

も急速に加速した。

つまり現代文明は、「超巨大協調ネットワーク化」でもある。

一方で、本書で述べてきたように、比較や承認競争も同時に増幅されている。

つまり現代社会では、

協調ベクトルと、
衝突ベクトル

が同時に極端化しているのである。

本書の視点では、人類社会とは単純な善悪構造ではない。

それは、

協力したい、
しかし競争もしたい。
愛したい、
しかし支配もしたい。

という矛盾した欲望ベクトルの巨大集合体なのである。

そして文明とは、その複雑なベクトル群を、「完全崩壊しない範囲」で動かし続けるシステムなのである。

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