5-7 AI時代と欲望増幅

人類は今、新しい文明段階へ入りつつある。

AIである。

人工知能は、単なる便利な道具ではない。

それは、人間の知的活動そのものを加速し始めている。

文章を書く。
画像を作る。
翻訳する。
分析する。
会話する。

かつて高度専門技能だったものが、急速に一般化され始めている。

本書の視点では、AIもまた、「欠乏から生まれた技術」である。

もっと速く。
もっと便利に。
もっと効率よく。
もっと知的作業を軽減したい。

その欲望が、AIを生み出した。

つまりAI文明も、人間の欠乏ベクトルの延長線上に存在している。

しかし重要なのは、AIは単に欠乏を埋めるだけでなく、「欲望そのものを増幅する可能性」があるという点である。

本書で繰り返し述べてきたように、人間は比較によって欲望を増幅する。

そしてAIは、その比較空間をさらに巨大化させる。

より魅力的な文章。
より美しい画像。
より高度な知識。
より効率的な仕事。

AIを使う人と使わない人の差も可視化される。

すると人間は、

もっと能力を高めなければ。
もっと効率化しなければ。
もっと競争に勝たなければ。

と感じやすくなる。

つまりAIは、「能力競争」を加速する可能性がある。

さらにAIは、人間の承認欲求とも強く結びつく。

SNSでは既に、

より目立つ投稿、
より拡散される表現、
より刺激的コンテンツ、

が競争している。

AIによって、それらの生成速度は爆発的に上昇する。

つまり現代社会では、「承認競争の自動化」が始まりつつあるのである。

ここで重要なのは、人間の脳は「比較対象の急増」に弱いという点である。

本来、人類の脳は小規模共同体向けに進化した。

しかし現代では、世界中の上位能力者と比較される。

さらにAI時代では、

AI補助を受けた超高性能成果物

が大量出現する。

すると人間は、以前よりさらに不足を感じやすくなる。

つまりAI時代とは、「欠乏感度の極限増幅時代」になる可能性がある。

また、AIは「疑似承認」も作り出す。

AIと会話する。
AIに褒められる。
AIが共感する。

これによって、人間の孤独感が一部緩和される可能性がある。

しかし同時に、人間関係そのものが変質する可能性もある。

なぜなら、人間関係には本来、

不確実性、
拒絶、
衝突、

が存在するからである。

AIは、それらを減らせる。

すると人間は、「現実の複雑な他者関係」を避けやすくなるかもしれない。

つまりAIは、人間の欲望を満たす一方で、人間の社会構造そのものを変えていく可能性がある。

さらにAIは、「知的優位性」への価値観も変化させる。

かつて知識そのものは希少だった。

しかしAI時代では、「知識を持つこと」よりも、

何を求めるか。
どんな問いを持つか。
何に興味を持つか。

の重要性が増していく可能性がある。

つまり、人間の「欲望ベクトル」そのものが、以前より重要になるのである。

本書で述べてきたように、人間は欠乏によって動く。

AIが多くの欠乏を埋めても、人間は新しい欠乏を作り出す。

もっと高度に。
もっと快適に。
もっと承認されたい。

つまりAIによって、人類が「満足する社会」へ到達するとは限らない。

むしろ、人間の欲望構造そのものが、さらに加速される可能性がある。

本書の視点では、AIとは単なる技術革命ではない。

それは、人間の欲望ベクトルを極限まで増幅する文明段階なのである。

そして人類は今、その入口へ立っているのである。

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