1-2 欲望とは何か

欲望とは何だろうか。

一般には、「欲望」という言葉には、どこか否定的な響きがある。

欲深い。
我欲が強い。
煩悩に支配されている。

そのような意味で使われることが多い。

しかし本書では、欲望をもっと広く、人間を動かす根本エネルギーとして考える。

人間は、欲望なしには生きられない。

食べたい。
眠りたい。
安全でいたい。
愛されたい。
認められたい。
知りたい。
勝ちたい。
美しくなりたい。

これらはすべて欲望である。

そして、人間の行動の大部分は、欲望によって駆動されている。

重要なのは、欲望は突然現れるものではないという点である。

欲望の根底には、必ず「欠乏」が存在する。

空腹があるから食欲が生まれる。
孤独があるから愛情欲求が生まれる。
劣等感があるから承認欲求が生まれる。
未知があるから知識欲が生まれる。

つまり、欲望とは、「不足を埋めたい」という脳の方向性なのである。

私はこれを、「欠乏から生じるベクトル」として考えている。

人間の脳は、不足を感じると、その対象へ意識を向ける。

金が足りない人は、金に注意が向く。
愛情に飢えた人は、人間関係に敏感になる。
性的欲求が強い人は、性的刺激への反応が強くなる。

欲望とは、注意と行動の方向を決定する力なのである。

ここで重要なのは、欲望には強弱があるという点である。

同じ環境にいても、強く反応する人と、ほとんど反応しない人がいる。

これは、「欠乏感度」の違いである。

ある人は、わずかな評価不足でも強い劣等感を感じる。
ある人は、強い性的刺激に対して非常に敏感である。
ある人は、知的刺激に対して強烈な興味を示す。

つまり、人間の個性とは、「どの方向の欠乏を強く感じるか」の違いでもある。

欲望は、人を苦しめる。

満たされないからである。

しかし同時に、欲望は人間を進化させる。

欲望があるから、人は努力する。
欲望があるから、人は発明する。
欲望があるから、人は他者と関わる。
欲望があるから、文明は発展する。

完全に欲望を失った世界では、争いは減るかもしれない。

しかし同時に、芸術も、科学も、恋愛も、文明の進歩も停止する可能性がある。

欲望とは、人類を不安定にする力である。

しかし同時に、人類を前進させる力でもある。

つまり、人間文明とは、欲望の歴史そのものなのである。

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