3-4 「もっと上」を見続ける脳

人間の脳は、なぜ満足しにくいのだろうか。

なぜ、ある程度成功しても、さらに上を目指してしまうのか。

本書の視点では、その背景には「比較」と「報酬系」の構造がある。

人間の脳は、本質的に「差」を検出する装置である。

より良いもの。
より高い地位。
より魅力的な相手。
より多くの資源。

それらを見つける能力は、生存や繁殖に有利だった。

そのため、人間の脳は、「もっと上が存在するか」を常に探索するよう進化してきた。

つまり、人間は「満足維持型」の脳ではなく、「探索継続型」の脳を持っているのである。

ここで重要なのは、脳は「慣れる」という点である。

かつて欲しかったものを手に入れても、それが日常化すると刺激は弱くなる。

新しい家。
高収入。
地位。
恋人。
名声。

最初は強い快感を与える。

しかし脳は徐々にそれを「普通」として処理し始める。

すると、新しい不足が生まれる。

もっと上へ。
もっと強く。
もっと豊かに。
もっと評価されたい。

つまり、人間の欲望には終点が存在しにくい。

本書で述べているように、欲望は「欠乏ベクトル」である。

しかし、人間の脳は、満たされた瞬間に新しい欠乏を発見する。

そのため、文明は止まらない。

技術進歩も、経済成長も、競争も、「まだ足りない」という感覚によって加速され続ける。

ここでSNS時代は、この傾向を極端に強化している。

かつて人間は、近所や地域共同体の中で比較していた。

しかし現代では、世界中の「最上位」が常に視界へ入る。

世界的成功者。
超富裕層。
超美形。
若い天才。
理想化された生活。

すると脳は、「自分はまだ低い位置にいる」と感じやすくなる。

重要なのは、脳は「統計的現実」を理解していないという点である。

SNSには極端な成功例が集中する。

しかし脳は、それを「普通に存在する世界」として錯覚しやすい。

その結果、現代人は、以前よりもはるかに満足しにくくなっている。

そして、この構造は承認欲求とも強く結びついている。

より認められたい。
より注目されたい。
より価値ある存在と思われたい。

しかし、上にはさらに上が存在する。

そのため、人間は終わりのない比較へ入り込みやすい。

もちろん、この構造には文明加速効果もある。

競争があるから努力が生まれる。
努力があるから技術が進歩する。
進歩があるから文明は発展する。

つまり「もっと上を見続ける脳」は、人類文明を発展させてきた原動力でもある。

しかし同時に、それは人間を永遠に満たされなくする。

人類は豊かになった。
便利になった。
安全になった。

それでも不安は消えない。

なぜなら脳は、「今あるもの」よりも、「まだ手に入っていないもの」に注意を向けるよう作られているからである。

つまり人間とは、「もっと上」を探し続ける存在なのである。

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