性欲は、人間を強く動かす。
それは単なる快感追求ではない。
性欲は、人間に行動エネルギーを与える巨大な原動力でもある。
人類の歴史を見れば、その影響は極めて大きい。
より魅力的になりたい。
異性に選ばれたい。
価値ある存在と思われたい。
その欲望が、人間を競争へ向かわせる。
金を稼ぐ。
地位を得る。
能力を磨く。
身体を鍛える。
芸術を創る。
知識を獲得する。
もちろん、人間の行動すべてが性欲だけで説明できるわけではない。
しかし、人類社会の多くの競争には、深い部分で性的選択が関与している。
進化生物学的に見れば、異性から選ばれることは、生殖成功と強く結びついていた。
そのため人間は、
魅力、
能力、
地位、
資源、
知性、
などを高めようとする方向へ進化してきた。
つまり性欲とは、単なる性行為への欲望ではない。
「より価値ある存在になりたい」という方向性そのものと深く結びついているのである。
本書の視点では、性欲もまた「ベクトル」である。
しかも極めて強いベクトルである。
性的欠乏感度が高い人は、性的価値への反応が強い。
すると、
もっと魅力的になりたい。
もっと認められたい。
もっと成功したい。
という方向へ行動エネルギーが生じやすい。
実際、若年期の人間は、恋愛や性的競争によって驚くほどの行動力を示すことがある。
危険を冒す。
努力する。
無理をする。
競争する。
それほどまでに、性欲は強いエネルギーを持っている。
歴史上の権力者たちも、多くの場合、性欲と無関係ではなかった。
権力、富、名声は、しばしば性的魅力や配偶者獲得能力と結びついてきた。
つまり、人類文明の競争構造の深部には、性的選択が存在している。
また、芸術や文化にも、性欲は深く関係している。
音楽、絵画、文学、ファッション、装飾――。
これらの一部は、「魅力を表現したい」という欲望と結びついて発展してきた。
人間は、単に生きるだけでは満足しない。
より魅力的に。
より価値ある存在に。
より他者から求められる存在に。
その欲望が、人間社会を動かしている。
一方で、性欲が強いことは、苦しみも生む。
嫉妬。
劣等感。
失恋。
比較。
執着。
性欲は、人間を幸福にも不幸にもする。
しかし、それでも性欲が文明に与えてきた影響は極めて大きい。
もし人類が性的欲望をほとんど持たない生物であったなら、現在のような巨大な競争社会や文明発展は存在しなかったかもしれない。
つまり性欲とは、単なる本能ではない。
それは、人間文明を加速させる巨大な行動エネルギーなのである。